はままつ★みちゅらん
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もっと、もっと

 

あの頃の気持ちは、いったいどこへ消えたのだろう。

僕が彼女に出会ったのは、太陽が眩しい季節。
毎日、日課のようにボードを抱えて二人で海に出かけた。
波がなくなると、僕たちは浜にあがって波と風の話をしながらビールを飲んだ。
暑さと疲れを洗い流すようにのどを流れるやわらかな刺激。
暑い夏の日ざしに額がじんわりと濡れ、照りつける太陽に目を細めながら一気に飲みほすビールは、少ししょっぱくて潮の香りがした。

海とビールと彼女。
それだけを繰り返す毎日。

あの頃は、何をしていても楽しかった。
何もしなくても楽しかった。

ナニモシナクテモ、タノシイ

相手の反応ひとつひとつ、すべてが初めてで、新鮮で、彼女のことを少しでも知りたいと思った。
少しずつ僕の知らない彼女から僕だけに見せる彼女の表情、しぐさが増えていき、それがたまらなくうれしかった。

それなのに今、僕のこころにあの頃の気持ちは存在しない。
古い日記帳のページをめくるように、遠い記憶の中にぼんやりと懐かしく思い出すことしかできない。

僕が変わってしまったのだろうか。
それとも変わったのは、彼女だろうか。
いや、どちらも変わってしまったのか。
それとも、どちらも変わらないまま時間だけが流れてしまったのだろうか。

つき合い初めたときと何ひとつ変わらない彼女に安心していた。
そして今は退屈している。

人は、「もっと」が好きだ。
その「もっと」には限りがない。
欲のない人間は、つまらないものかもしれない。
でも、彼女に対して、もっと会いたいとか、もっと一緒にいたいとか、もっと話したいとか、もっと知りたいとか、もっと解り合いたいとか、もっと触れたいとか、そんな気持ちが僕にはもうなくなってしまった。
何故だろう。

「初めて」「特別」という形容詞がつく体験には、魔力がある。

初めて訪れたお店。
メニューも雰囲気も対応も、すべてが新鮮で楽しい。
そして、もう一度行ってみたいと思う。
でも、2回目、3回目とその店に訪れるたび、だんだんとがっかりすることが多くなる。
美味しいと思った味が、平凡に思えてくる。
丁寧で気持ちがいいと思っていた接客にも、少しずつ不満がでてくる。
お店のアラが目につくようになる。
何故だろう。

「初めて」「特別」の魔法がとけるのは、それが「あたりまえ」になってしまったとき。

メニュー、テーブル、インテリア、味、モノの形、色、家、そして言葉、これらはどんなに「特別 」なものであってもやがて「あたりまえ」に変わっていく。
「いらっしゃいませ」「ありがとう」「ごちそうさま」「好きだよ」「愛してる」
こららの言葉も、いつか「あたりまえ」に変わる。

けれど「あたりまえ」に変容しないモノもある。
それは、ひとの心。
ひとの心に「あたりまえ」は存在しない。

習慣ではない、心の言葉。

僕は、もっと彼女の笑顔が見たいと思った。

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