Happy Birthday
4月の桜が満開の時に生まれたから「さくら」
そう親が名付けた。
自分の名前は、気に入っている。
Happy Birthday Sakura?
うれしくない誕生日。
チャイムが鳴った。
ドアを開けると、大学で同じゼミの男の子が
照れくさそうに、大きな紙袋を抱えて立っていた。
「これ」と彼はその紙袋を私に差し出した。
「今日、誕生日だろ。だから・・・」
じゃ、と帰ろうとする彼の手をとっさにつかんでいた。
「少し上がっていかない?」
「いいよ、これから用事あるし。」
彼は、心外だといった様子で目をそらした。
「おねがい。それに、これってケーキだよね。
すごく大きそうだし、一人じゃ食べられないよ。」
紙袋の中の大きな四角い紙包みは、細かなピンク色の花がちりばめられ赤いリボンがかかっていた。
そして、私のお気に入りのケーキ屋のシールが貼ってあった。
ほどきながら、少し胸がどきどきした。
箱を開けると、ぷうんといちごの甘い香りがした。
それは8人で食べてもまだ余ってしまいそうな大きさの、いちごの載ったオーソドックスなショートケーキだった。
Happy Birthday Sakura
茶色いチョコレート文字で、そう書いてあった。
思わず涙が出そうになった。
「ろうそくを、立ててもいいかな。」
私がそう言うと、彼は黙ってポケットからライターを取り出したので、 私は細い色とりどりのろうそくをいちごといちごの間に一本づつ8本立てた。
私がろうそくを立て終わると、彼はライターの火をつけ、ろうそくに火を灯した。
ろうそくの炎は、何か言いたそうに小さく揺らめいて、それは、わたしたちの感情そのままのように見えた。
しばらくの間、ろうそくの炎を私たちは無言で眺めていた。
ろうが溶けて、ケーキに赤や青やピンク色の水たまりが
いくつも出来はじめた。
「やっぱり帰るよ。本当に予定があるんだ。」
彼は、ろうそくのゆらゆらを見つめたまま、私の方を見ないで言った。
「うん。ありがとう。」
私も今度は引き止めなかった。
彼が帰った後、私はほとんど燃え尽きて溶けてしまったろうそくを
立てたままのケーキを、しばらくの間ぼんやりと眺めていた。
「こんな大きなケーキ、馬鹿だなあ。」
ろうそくのろうが、すっかり短くなってしまったろうの上を流れてケーキにしみをつくるように、涙がひとつぶ頬をつたってテーブルに小さな水たまりをつくった。
Happy Birthday Sakura
炎を消すと、白いけむりがすぅーっと上の方へ上っていった。
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