ダイエット
ダイエットにはじまりはあっても終わりはない。
昔、流行ったマーフィーの法則に確かそんな言葉があった。
大抵のひとの場合、太っている原因は単なる食べ過ぎではなく、一時的な運動不足でもなく、慢性的な太る習慣そのものである。
だからダイエットをしようと考えるのなら一時的な対処療法ではなく、悪しき習慣そのものを変えなければいけない。そうでなければ必ずそれはリバウンドする。
まさに「ダイエットにはじまりはあっても終わりはない」のである。
一方、無理なダイエットにはいつか終わりがくる。あるいは終わらせなければいけない。
江美は甘いものに目がない。
どこかに出かけるとかならず「ねぇ、パフェ食べようよ」と私を誘う。
わたしは、いつのころからか甘いものが大量に食べられなくなった。お酒を飲むようになったからかもしれない。ソフトクリーム一つ食べるのがしんどい。
江美はたいていの場合、生クリームのたっぷりのったストロベリーパフェを注文する。
ストロベリーパフェを置いていない店は意外なほど少ない。たいていのお店にはストロベリーパフェがちゃんとある。夏でも秋でもちゃんとある。
彼女はいつも迷った末にストロベリーパフェを注文する。
結局これにするのに決まっているのに、オーダーを取りに来たウェイトレスを前にして、ぎりぎりまで彼女は迷う。そして決心したように定番の「ストロベリーパフェ」を注文する。
江美のパフェの食べ方はとても奇妙だ。
生クリームをほとんど食べない。きれいに渦を巻いている生クリームのらせんの下を手慣れた手付きで掘り起こし、コーンフレークやいちごやヨーグルトだけを食べる。最後にはきれいに生クリームがグラスの下に残る。
食べない理由は太るから。
わたしはいつも彼女に言う。
「そんなに太るのが嫌なら他の物を頼んだらいいじゃない。」
すると彼女はきまって「これが食べたいの」と言う。
パフェを食べる行為によって満足するのだという。コーヒーゼリーではダメなんだそうだ。
「あれだと、いかにもダイエットしてますという感じがして嫌なのよ」
ふうん、自分で自分の感覚をだますわけね。
無惨にグラスの底に生クリームがべったりと残ったストロベリーパフェの残骸を見て、わたしはこっちの方がもっとみっともないと思うけどなあと思うのだが、彼女はこれには恥じる気持ちがないみたいだ。
江美はとんかつも衣を剥がしてたべる。定食を頼んでも御飯を残す。コース料理を食べても少しずつ残す。
おかげで、江美はとってもスリムになった。
もともとが美人な江美は、やせてますますきれいになったと自負している。でも私は昔の彼女の方がずっと魅力的だったと思う。少なくとも彼女と食事をするのは楽しかった。格別太っていない標準体重の江美がさらに体重を落とすためには、こういう努力が必要なのかもしれない。けれども彼女と食事をする度に私は
「太らないことの方が、私と楽しく食事をすることより重要なの?」
と寂しくなった。
ある時から、わたしは江美と食事をするのが憂鬱になった。彼女のマナーがはずかしいのだ。食事も楽しめなくなった。
彼女は、いまもあの行為を続けているのだろうか?
ダイエットにもマナーはある。
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