はままつ★みちゅらん
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死なない理由


疲れた時には、ひとりに限る。
ひとり、音という音を消して自分の音を聞く。 押し上げてくるような内臓の音。
冷えたビールの瓶を空け、口をつけてごくりと飲む。のどにぴりぴりとしみる。
ビールが胃に流れ込む音が、ため息のように聞こえる。
「疲れたよ」
誰に話しかけるわけでもなく声が出て、私は中指の腹で濡れた唇を拭う。
ふっ、という小さなため息にまじったビールのアルコール臭が、中指をつたって鼻腔に流れ込み、耳の横で逃げ場を失ってすぅっと細胞に染み込んでいく。

電話が鳴った。 大学時代の友人からだ。何年ぶりだろう。なつかしい、そう言おうとしたとき
「 友田が死んだ。自殺だ。」

人が死ぬのには、もう驚かない。
人はいつか死ぬものだし、私もいつか死ぬ。
中学生のとき恩師の突然の死にとまどい、恐怖心を覚えたあの時から今まで、何人かの身近な人の死を見てきた。仕方ない。人はいつか死ぬものだから。
それでも、やはり突然の死の連絡にはとまどう。
彼は、自宅の書斎で首を吊ったという。
なぜ?
死者に理由を尋ねるのは愚鈍だろう。それでも死ぬ前の彼に会ってみたかったと思う。
なぜ死を選んだ。

私が今ここに生きているのは、私が生きたいからではない。
生きたくて、生きたくても、死んでいく人がいる。
私が死なないのには、ちゃんと理由がある。
たぶん将来、成し遂げる何かのために、私は生かされているのだろう。
それは私自身が何かをするのかもしれないし、私の配偶者が何かをするのかもしれない。
何かを成し遂げるのは、友達かもしれない。
友達の友達かもしれない。友達の友達の友達かもしれない。
あるいは、自分の子どもかもしれない。
偶然、何かの会で出会って言葉をかわす人かもしれない。
偶然、バーで隣にすわる人かもしれない。
たとえ私に何の力も技術もなくても、私が偶然口にした言葉や、態度や、私を通じてつながった人間関係や私の行動が誰かの行動に影響を与えるかもしれない。

それは、私が善であるか悪であるかは全く関係がない。
善が万人のためになり、悪が万人にとって害である。そんなことはあり得ない。
この世は、そんなファンタジーのように単純な世界ではない。

とにかく、未来、もしかしたらこの瞬間かもしれないその何かのために、私は生かされていると思う。
人は人によってつながれている。
建物、家族、記憶ですら人を介してつながっている。

私には生きている意味がない。そう思ったことは幾度もある。
その度に私にはなくても他の誰かには、私が生きている意味があるのだと思う。
それは今日かもしれない。明日かもしれない。十年後かもしれない。三十年後かもしれない。

とにかく私は生かされている。
疲れた時、ひとりになるといつもそう思う。

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