女性とキャリア
世の中を見渡しても、女の会社のあれこれに耳を傾けてくれる男は、あまり存在していないのだ。
「ねえ、女が仕事に取り憑かれちゃいけないの」
「いけなかないさ、いけなかないけどさ・・・」
「いけなかないけど、女がそういうことをすると失望することが多いからな。」
「女が、仕事で楽しそうにしてるの、あまり好きじゃないみたいね。」
「男はみんなそうだよ」
「女が仕事のことを話すと、ほかの男のことを聞いているみたいな気分になるんだよなあ。これも一種の嫉妬で、仕方ないことじゃないかなあ。」
・・・・
仕事でも恋でも100%幸福になってみせる。
外資系化粧品会社に転職を決めた沙美。
そんな彼女に恋人はこう言う。
「仕事で百パーセント幸福になろうと思うと、絶対に無理がくるよ。特に女性の場合はね。結婚して子供産んで、それでトータルで百パーセントになればいいじゃないか。」
それでは満足できない。 仕事も恋も結婚も手に入れたいと思うことは欲張りだろうか。
ある時、仕事で泊り込みの研修に参加した。
1日中通しで研修を受け、へとへとになってホテルの部屋に戻ったとき、 なんだかとても幸せだと思った。
男の人は毎日こんな感じなのかとうやらましく感じた。
仕事のことだけ考えて部屋に戻れば何もせず、ベッドにもぐりこめる喜びがあった。
家庭を持ったら、こうはいかない。
洗濯、掃除、食事の片づけ、お風呂の掃除・・・
家庭には『仕事より大切な優先事項』がたくさんある。 それ故、『女が仕事に没頭することは、悪』らしい。
働く女性にとって、どんな相手ならうまくいくのだろう。
自立した男をというのは大前提だが、それだって難しい。
それこそ、仕事の愚痴を辛抱強く聞いてくれる男など、そうそういない。 相手も、安らぎを求めている。
安らぎを欲しいものどうしの働く女性と付き合えるのは、 余程辛抱強い大人の男か、その女性に対し余裕を持てる男。
結局彼女も、そういう男としか続いていけない。
彼女の生き方は間違っていない。 けれど、やっぱりどこかむなしく、悲しいとも思う。
沙美は思う。
「自分はこうして仕事の成功と引き換えに何かを失っていくだろう。それを後悔する日もくるかもしれないが、まだまだ先のことだ。・・・
「・・・きっときっと幸福になる。」
これくらい強い女でないと、こういう生き方はできないのかもしれない 。
林 真理子 著「コスメティック 」