カレー談義
平日のビアホールはサラリーマンたちが会社帰りにふらっと立ち寄っては、上司や取引先、それに女房の愚痴話に花を咲かせる格好の場所である。
今夜もサラリーマンらしき男たち4人が、額に汗をにじませながら話に熱を上げている。
「俺、ショックでさあ。去年、結婚しただろ。そしたらさあ、かみさんの作るカレーが甘かったんだよ。」
「ふうん、甘いカレーね。僕は辛い方が好きだけど。でも、いいじゃないか、カレーが甘いくらい。 お前の奥さん綺麗だし、それぐらいは諦めろよ」
どうやら、カレーの好みがテーマらしい。
男の言い分はまだ続く。
「甘いくらいっていうけどな。料理の味の好みの差は、想像以上に厄介なんだぜ。たまにまっすぐ家に帰るだろ。ドアを開けると、あの甘いカレーの香りが体中をぶわっと囲みにくるんだよ。そのまま、Uターンして居酒屋に直行したくなるよ」
「ははっ、それ分かる。カレー食べたくない日にカレーってショックだよな。」
「しかもカレーの日はさ、カレーを拒否したら他に食べるものがないんだよ。」
そう言って男はグラスに3分の1程残ったビールを飲み干すとウェイターを呼ぶため手を上げた。
「あんまり飲み過ぎるなよ。明日は朝から大事なクライアントとの打ち合わせ、あるんだせ。」
それでも男の勢いはとまらない。
「カレーの付け合わせって難しいよね。うちだって、らっき
ょうと福神漬け、それにサラダぐらいだもんな。」
「僕は、実は甘酸っぱいカレーが意外と好きなんですけど。レーズンが入った。」
それまで、まだ一言も口を開いていなかった男が話に加わってきた。
なで肩でスーツの似合わないこの青年は、きっこの春入社したばかりの新人だろう。年もおそらくこの4人の中で一番年下だ。
「げー、なんだそれ。ドライカレーじゃないんだから。おまえのところはレーズン入ってるのか」
「えっ知らないんですか?レーズン入れるとカレーに酸味と甘味がでるんですよ。」
「おい、お前やけに詳しいな。」
そう言われた青年は、途端に目を輝かせ、待ってましたとばかり得意そうに話し始めた。
「はい、カレーとパスタは僕が作るんです。カレーはルウから手作りしますね。最近は、スーパーでもスパイスや素材が簡単に手に入るようになったしね。まずは、・・・・」
カレーのレシピに全く興味がない男は、青年の話の腰を折って話し出す。
「とにかくカレーは、辛いのに限るよ。子どもみたいに玉葱とじゃがいもと人参をどろどろの甘ったるいソースで食べるなんて気持ち悪いくないか?女と同じだよ
」
「なにそれ。女と同じって」
「だから、辛いのがいいでしょう。甘ったるいのも、どろどろしたのもやだね。」
「そうかな、・・・」
男たちの、ワガママカレー談議は時々横道にそれながら、続いていく。